もやもや病(もやもやびょう)
疾患症状について
脳に血流を運ぶ主な血管には、左右の内頚動脈、左右の椎骨動脈の計4本があります。もやもや病は、この中でも特に重要な内頚動脈の末端などが徐々に細くなり、血流が足りなくなった脳が血流の抜け道を発達させて、本来細いはずの脆弱な血管がフル動員される病気です。
この動員された血管が血管撮影の検査で特徴的な「もやもやした血管」として見えるため、もやもや病と呼ばれますが、「頭がもやもやする」という症状をきたすわけではありません。血流が足りなくなり脳梗塞や一過性の虚血発作を起こす場合もあれば、本来細いはずの動員された血管が破綻して脳出血を起こす場合もあります。
もやもや病の原因は徐々に解明されつつありますが、まだはっきりとはわかっていません。家系の中に遺伝している場合もある一方で、家族全員が発症するわけでもありません。
検査・診断
造影剤や放射線を使わないMRIを用いて血管を描出するMRAを含めた、さまざまな画像を評価することでもやもや病の診断ができる場合があります。
もやもや病を疑う場合は精密検査として、造影剤を使用したCT検査であるCTAで血管の撮影を行う場合もあります。脳血流の具合を評価する特殊な検査を行う場合もあります。
検査の結果治療をしたほうが良いと考えられる患者さんには、カテーテルを用いた血管撮影検査を行い、より精密に脳の血流の状態を評価します。
治療法(手術)
もやもや病は、徐々に進行性に血管が詰まってきて、そのために他の脆弱な血行路が発達してしまう病気です。この病気の進行中に脳梗塞や脳出血など来さず過ごすことができれば、特に手術などの治療をせず経過観察をする場合があります。
一方で、特に小児や若年の場合、この血流不足が脳の発育に影響するという報告もあり、例えば前頭葉という部位の血流が著しく乏しい場合などは手術を勧めることもあります。成人の場合も、脳血流の状態から脳出血や脳梗塞のリスクが高いと判断される場合には手術を勧めています。
手術は、浅側頭動脈や後頭動脈という頭皮の血管を脳表の血管につなぐ直接バイパス手術と、血管や筋肉、硬膜、骨膜などの血流豊富な組織を脳表に接するよう固定することで、そこから血流が入り込むよう期待する間接バイパス手術とがあります。もやもや病の細かい血管をつなぐ手術はそんなに容易いものではないとされるため、つなぎやすい血管にとりあえず1〜2本だけ直接バイパスを行うという術者が多いようです。
しかし国際学会でも技術指導をするなどバイパスの技術にこだわりのある我々は、血管撮影検査の結果に基づき血流が足りないところ、あるいは今後血流が足りなくなるであろう部位に、必要に応じて必要な本数だけ直接バイパスを行い、さらには間接バイパスも併用し、血流が不足している部位に十分な血流がもたらされるよう、患者さん一人ひとりにテーラーメイドのデザインを行ったこだわりの手術を行います。
経過
経過観察を行う場合は、内頚動脈が細くなり脆弱な細かい血行路が発達してくるステージに応じて、数ヶ月〜1年間隔ほどでMRIや血管撮影の検査を行い、安全確認をします。
手術を行う場合は、手術前日に入院しテーラーメイドの手術を受け、術後1週間程度で創部が綺麗に治癒してくることを確認してから退院となることが多いです。
術後に、過灌流という血流が多く入りすぎる状態となることがあり、頭痛や痙攣、一過性の麻痺や失語などをきたす場合もあります。過灌流になってしまった場合は、薬を用いた治療で血流が落ち着いたところで退院いただきます。
開頭術後の日常生活への復帰には個人差があり、一時的に頭痛やふらつきを感じられる場合もありますが、概ね術後2週間程度で元通りの生活が可能になります。