頚動脈狭窄(けいどうみゃくきょうさく)
疾患症状について
脳に血流を運ぶ主な血管には、左右の内頚動脈、左右の椎骨動脈の計4本があります。このうちの特に重要な内頚動脈は、首を通過する部位で細くなってしまうことがあります。厳密には細くなるというよりは、血管の壁にプラークという沈着物が溜まり分厚くなった結果、血流の通り道が細くなる状態です。
このプラークは「おかゆ」のようにジュクジュクしたもので、これが脳に飛んで脳梗塞になる原因となることがあります。あるいは、血流の通り道が細くなった結果、脳への血流が足りなくなって脳梗塞になったり、一過性に脳梗塞の症状が出たりします。その症状は脳梗塞の部位によってさまざまですが、半身に力が入らなくなる、しびれる、ふらつく、ろれつが回らない、言葉がでにくい、などが代表的です。
検査・診断
造影剤や放射線を使わないMRIを用いた血管検査であるMRAや、同じく造影剤や放射線を使わない超音波(エコー)検査にて狭窄があるかを評価します。またMRIを用いて狭窄の原因となっているプラークがどれくらい脆弱で危険なものなのかも評価します。
内頚動脈が細くなった結果、脳の血流が足りなくなっている恐れがある患者さんには、脳血流の検査やカテーテルを用いた血管撮影を行う場合があります。
治療法(手術)
脳梗塞症状のない内頚動脈狭窄の場合は、内服薬を調整して手術なしに経過観察をすることが多いです。脳梗塞をきたしてしまっている場合は、狭窄の原因のプラークの状態や狭窄度合いに応じて手術をお勧めします。手術には、カテーテルを用いたステント留置術と、頚動脈を直接処理する内膜剥離術があります。
ステント留置術の場合は、手首や鼡径部からカテーテルを挿入し、風船のような道具を用いて狭窄部を広げ、ステントという網目状の筒を狭窄部に展開して固定します。近年はカテーテルの道具の進歩により安全に良好な成績が得られるようになりましたが、抗血小板薬を一定期間服用する必要があります。血管が細くなっている原因のプラークがあまり脆弱ではなく、細くなっているところを広げるだけで良い場合はこちらをお勧めすることが多いです。
内膜剥離術を行う場合、頚部の皮膚を切るというのが最大のデメリットになりますが、当院では頚部のシワにそって4cm程度横向きに皮膚切開をして、抜糸のいらない技術を用いて綺麗に皮膚を閉じることで整容面でも目立たない手術が可能です。内膜剥離術を行うと、原因となっているプラークそのものを完全に摘出できるため再発のリスクや術中に沈着物が脳に飛んで脳梗塞になるリスクは低くなります。
高位病変という、狭窄部が耳の下、顎の骨の裏側にあり、手術が難しいと言われる患者さんもいますが、当院では問題なく手術が可能です。プラークの性状によっては、脆弱すぎてステントで押さえつけるだけでは脳梗塞や再発のリスクがあるため、こちらをお勧めする場合があります。
プラークや狭窄の具合に応じて患者さんと相談しながら、どちらの治療も安全に行える二刀流のハイブリッドな脳外科医が治療方針の決定をお手伝いいたします。
経過
手術をせずに経過観察を行う場合は、狭窄度やプラークの状態によって数ヶ月〜1年間隔にMRIや超音波の検査を行い病変の進行有無を評価します。この間、内科の先生と連携しながら、コレステロールや血糖、血圧などの管理を行っていきます。
ステント留置術と内膜剥離術ともに、患者さんには手術前日に入院いただきます。内頚動脈がかなり細くなっている患者さんは、術後に血流が多くなりすぎる過灌流という状態のリスクがあります。これは頭痛や痙攣などを起こす場合もありますが、重篤なものになると脳出血を起こすため、リスクが高い患者さんは術後1〜2週間、血流の検査をしながら血圧の管理をするため入院を続けていただきます。そのリスクが低い患者さんは術後数日〜1週間程度で退院となり、退院後はすぐに日常生活に戻ることが可能です。